生成AIが拓くデータ活用の新時代~チャットで誰もがデータアナリストに~

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はじめに
「データは存在するが、一部の専門家しか引き出せない」 「データに基づいた迅速な意思決定をしたいが、分析担当者への依頼に時間がかかる」
企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進において、データ統合基盤の構築は大きな一歩です。しかし、基盤を整えた先に「データの活用が特定のスキルを持つ人材に属人化してしまう」という新たな壁に直面している企業は少なくありません。
本記事では、この「スキルの属人化」という課題を解決するため、生成AIを活用してデータ活用の民主化を目指す研究について、その概要と可能性をご紹介します。
データ活用における「次なる課題」
多くの企業では、DX推進の一環として、社内に散在するデータを一元的に集約するデータウェアハウス(DWH)の構築が進んでいます。これにより、部門を横断したデータ分析ができるようになります。
しかし、この強力なDWHからデータを抽出・分析するためには、依然としてSQLなどの専門的な知識やスキルが不可欠です。その結果、以下の課題が発生します。
・ 課題1:ビジネス部門のタイムリーなデータ活用が困難
ビジネスの現場担当者が「あの商品の年代別売上を見たい」「特定の顧客層の動向を知りたい」と思っても、自らデータを抽出できず、データ分析担当者に依頼する必要があります。このやり取りには時間がかかり、ビジネスチャンスを逃す一因となり得ます。
・ 課題2:データ分析担当者の業務逼迫
データ分析担当者は、様々な部門からの定型的なデータ抽出依頼に多くの時間を費やすことになり、本来注力すべき高度な分析やインサイトの発見といった業務に集中できなくなってしまいます。
このように、データへのアクセスが一部のユーザーに限定されてしまう「属人化」が、データドリブン経営の実現に向けた大きな足かせとなっているのです。
解決の鍵:生成AIによる「データ抽出の対話化」
こうした課題を解決するため、生成AIを用いて専門家と会話するようにチャットを通じてデータを自在に引き出せる、新たなデータ抽出手法の研究に取り組んでいます。
AWSを活用した研究アーキテクチャ
本研究のアーキテクチャは、クラウドプラットフォームであるアマゾン ウェブ サービス(AWS)の主要なマネージドサービスで構成されています。
・ データウェアハウス (Amazon Redshift): 分析の基盤として、Amazon Redshiftにデータが集約されていることを前提とします。これは、企業のデータ統合基盤の心臓部にあたります。
・ 生成AIサービス (Amazon Bedrock): ユーザーとの自然言語による対話と、その内容を解釈してSQLを生成する頭脳として、Amazon Bedrockを活用します。
チャットによるデータ抽出フロー
ユーザーは以下のシンプルなステップで、必要なデータを取得できます。
1.質問を入力: ユーザーはチャット画面に、自然言語(日本語)で「先月の売上トップ5の商品は?」といった質問を入力します。
2.生成AIによるSQL自動生成: Bedrockが質問の意図を解釈し、Amazon Redshiftで実行可能な形式のSQLクエリを自動的に生成します。
3.データ抽出: 自動生成されたSQLがRedshiftに対して実行され、該当するデータが抽出されます。
4.結果を平易な言葉で回答: 抽出されたデータが再びBedrockを通じて、ユーザーに分かりやすい形式(文章や表など)でチャット画面に返されます。
生成AI活用がもたらす具体的な効果
この仕組みが実現することで、データ活用は劇的に変わります。
・ 効果1:データ活用の民主化と意思決定の迅速化
SQLを知らない経営層やマーケティング担当者、営業担当者でも、必要なデータを必要な時に自らの手で直接入手できるようになります。これにより、勘や経験だけに頼らない、データに基づいた客観的でスピーディーな意思決定が組織全体で可能になります。
・ 効果2:全社的な生産性の向上
データ分析担当者は、単純な抽出作業から解放され、データモデリングや将来予測といった、より付加価値の高い業務に専念できます。一方、ビジネス部門の担当者も、データ待ちの時間を削減でき、本来の業務に集中できます。
・ 効果3:新たなインサイトの発見促進
誰もが気軽にデータを探索できる環境は、これまで気づかなかったデータの関連性や新たなビジネスチャンスの発見を促します。「あのデータとこのデータを掛け合わせたらどうなるだろう?」といった仮説検証のサイクルが高速で回るようになり、企業の競争力強化に直結します。
まとめ
データ統合基盤の構築がデータドリブン経営の「第一歩」だとすれば、生成AIによるデータ活用の民主化は、その効果を最大化する「次の一歩」と言えるでしょう。
私たちの研究は、単にデータ抽出を効率化するだけではありません。組織に属する誰もがデータと対話し、その価値を最大限に引き出す文化を醸成することを目指しています。今後、将来的にはデータの可視化や、インサイトの示唆までをAIがサポートすることも視野に入れ、研究開発をさらに加速させていきます。

